【書評】世界で一番やさしい会議の教科書

世界で一番やさしい会議の教科書 03_ファシリテーション文具案内

当ブログは文具やツールの紹介が記事の中心なので、お読みくださっている方もいわゆる「ファシリテーションにおける可視化」への興味が強い方が多いのではないでしょうか。ブログ主自身が可視化偏重のファシリテーターという事情もあり、可視化スキルについてお悩みを伺う機会も多くあります。

個人的には、このようなお悩みは「ファシリテーションの基礎を知ればけっこう解決するよ?」と思っています。小手先のテクニックだけではなく、体幹を鍛えるようなイメージです。

では、(広義の)ファシリテーションの基礎はどのように学べばよいのか。ブログ主はまず「会議ファシリテーションを身につけること」をお勧めしたいと思います。
そんな「ビジネスの場でビシッと決める」みたいな場は求めていない、もっとあたたかでゆるやかな場を作りたいんだと考える方にとっても、会議ファシリテーションはぜひ身につけておきたいスキルだと考えています。会議のプロセスはとても典型的かつ網羅的で、「アレ(概念)がコレ(実感)か!」を理解しやすいのです。

前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する『世界で一番やさしい会議の教科書』は会議ファシリテーションの全体像、ステップをわかりやすく具体的に把握することができます。会議ファシリテーションの基礎をおさえるには最高の本で、ブログ主はいつも導入としてみなさんにお勧めしています。
シチュエーションや言葉はもちろんビジネスパーソンに響くように選ばれていますが、若手社員がファシリテーターとして成長していく小説仕立てで、具体的で親しみやすい構成です。

この記事では、各章で挙げられているファシリテーションの要素をグラフィックレコーダー目線でご紹介したいと思います(やっと本論!)。主人公が自社のダメ会議にがっくり来る第1章は導入と場面設定で、第2章から第5章がファシリテーションの解説です。

第2章 確認するファシリテーションを始める

入社2年目の主人公に表だってできることはまだほとんどありません。しかし、この会議で決まったことやそれに基づいてやるべきことを最後に確認するのは参加者なら誰にでもできます(できるはずです。できないとすれば「その集まりを会議と言ってよいか」という問題になるでしょう)。時間配分と進行を確認するのも重要なことです。主人公はこのような「隠れファシリテーション」を始めました。

グラフィックレコーダーも「確認するファシリテーション」を行います。口頭で「こういう理解でいいんですかね?」と言ってみたり、描いたものを示すことで認識の違いが明らかになったり。時間配分をアジェンダとして掲示しておくこと、これも確認するファシリテーションの補助具です。

第3章 書くファシリテーションを始める

口頭で確認するファシリテーションだけでは限界がやってきます。いよいよ「可視化」、書くファシリテーションの出番です。ここで紹介されているのはいわゆる「スクライブ」(の基礎の基礎)で絵や図はまったく出てきていません。せいぜい矢印程度です。でもとても効果的です。

この章でグラフィックレコーダーが学べることは「何を拾うべきか?」です。聴いたことを描き漏らすまいと頭からどんどん描いていって収拾がつかなくなること、ありますよね。この本では何を書くべきか、シンプルに述べられています。

  • 決まったこととやるべきことを漏らさず書く
  • 問いや論点をはっきり書く

この2点です。シンプルですが、場の目的や結論をしっかり認識していないとできないこと。これは「確認するファシリテーション」や後述するスキルとの合わせ技です。
例えば講演のグラフィックレコーディングならば「決まったこと、やるべきこと=その講演の結論、演者の主張」「問いや論点=(そのまま、問いや論点)の投げかけ、演題」と読み替えればすっきりしませんか。ただ、表現方法が少し違うだけです。

第4章 隠れないファシリテーションを始める

「確認する」「書く」ファシリテーションは前に立たなくてもできる「隠れファシリテーション」です。しかし、会議の目的によっては隠れたファシリテーションだけではどうにもならないことがあります。そこで主人公は「隠れないファシリテーション」を学び、いわゆるファシリテーターとしての第一歩を踏み出します。

この章で主に説明されているのは、会議のフェーズとそれに対応するファシリテーションのスキル。会議(やワークショップ)の進行の段階とそこでやるべきこと、目指すべきことを学んでいます。もちろん実際の現場はとても複雑で「この場はこれをやればOK!」という単純なものではありません。しかし、基本を知ってフェーズを意識すればグラフィックレコーディングもとても描きやすくなり、また、場に資するものになります。

ファシリテーターが今何のために何をしているのか知っていれば、多少のイレギュラーは怖くありません。逆に名ばかりファシリテーターでフェーズをまったく意識していない(こういう基本を知らない)人がリードする場に入ってしまった場合、グラフィックでどうサポートするかを考えるのもグラフィックレコーダーのできることだったりします(隠れた「描くファシリテーション」をするわけです)。

第5章 Prepするファシリテーションを始める

最後は会議の事前準備について主人公が学びます。その日その場で前に立つことだけがファシリテーターの役目ではありません。むしろ、事前準備が成否を分けると言っていいかもしれません。

Prep(プレップ)とは単に資料などの準備にとどまらず、次の「4つのP」を揃えることが重要です。

  • Purpose(目的)
  • Process(進め方)
  • People(参加者)
  • Property(道具)

この4つのP、イベントのグラフィックレコーディングを描くときもとても気になりますよね? 主催者にこれらをきちんと聞くことは、グラフィックレコーディングの準備として欠かせません。イベント主催者が意外と気にしていないこともあるので、確認して助けることも「隠れファシリテーター」たるグラフィックレコーダーの役目なのではと思っています。

ファシリテーションの基本は変わらない

例となるストーリーはガチガチビジネス会議ですが、より場に資するグラフィックレコーディングを描くためには何が必要なのか? の示唆を与えてくれます。なぜならグラフィックレコーディングがファシリテーションツールである限り、やっぱり本質は変わらないのですよね。難易度や働きかけの方向、アウトプットの手法は違ってもファシリテーションプロセスの基本は大きくは変わりません。

小説仕立ての構成と表紙について

森時彦さんの『ザ・ファシリテーター』シリーズといい、ファシリテーションを書籍で知るためには小説仕立てと相性がよさそうです。単に「発散、収束」などと単語を覚えたって、どんなフレームワークを覚えたって、実際に使うシーンをイメージできなければただのムダ知識。ムダ知識であればまだマシで、言葉だけをやみくもに使って失敗する人のなんと多いことか! その点、小説なら失敗や不発に終わったエピソードも盛り込まれていたり、登場人物の心理描写があったりして、我が身に置き換えやすいですね。

森さんのシリーズと比較すると、こちらの『世界で一番やさしい会議の教科書』はホントにホントにスタッフレベルの方からお勧めできます。森さんも『ストーリーでわかるファシリテーター入門』という入門編を書かれていますが、現場リーダーレベル以上の権限がないとやりにくいシチュエーションもありますので(でもこちらも良著なのでぜひ!)。

ただこの本、表紙のイラストでびっくりされることが多いんですよね……今どきの画風といえばそうですが。加えて、『マンガでわかる!』系の本だと思われることも多いようです。マンガじゃないよ、文字の本だよ。読んでみると間違いなく「コンサルタントの書いたビジネス書」だよ(これは褒めてる)。

とはいえこれでは売れないだろうし

ストーリー仕立てが苦手な方もいるかと思います。そんな方にはこちら「実践編」をどうぞ。


小説版の要素を補完し、体系的に整理し、解説を加えたまさに「教科書」。世の中にファシリテーションスキルの本は多いのですが、この本は変に賢さを振りかざすことなく具体的にイメージできるように書かれていて、その点もまた使いやすい本だと感じます。

ちなみに、著者の榊巻亮さんとは以前座談会でご一緒させていただきましたが、それ以前からこの本買って布教していた単なるファンです……。

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