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ファシリテーション文具2020〜ツールどうでもよくない? まで来た話

ファシリテーション文具2020〜ツールどうでもよくない? まで来た話



この記事はグラフィックレコーディング Advent Calendar 2020に参加しています。わなみん毎年ありがとう! おかげさまで、年に1回だけemotionalなコラムを書くことができます。

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自己紹介

グラフィックレコーディングもできるファシリテーターと名乗って活動している「ナミ」です。グラフィックレコーディングアドベントカレンダーには4回目の参加です。詳しめの自己紹介はリンク先をどうぞ。勤めをしながら、ファシリテーターの仕事もしている2足のわらじタイプです。当ブログは「ファシリテーション文具案内」というタイトルで、主にファシリテーションツールの話をする即物的なサイトです。

2020年の仕事

ファシリテーターの仕事は昨年あたりから特に企業内(社外秘)の案件が多くなってきて、表に出せないながらも描いたり教えたりをしていました。勤めのほうは外資グローバル企業×業界の特徴×IT部門と、もともとリモートに慣れている事情もあって、ありがたいことに3月はじめからずっと在宅勤務させてもらっています。3月からこちら、出社したのは2回だけです。

実につまらない回答をした

2月の末に、かねてよりお付き合いのある会社の方から「リモート会議で書くファシリテーションするのに、どんなツールがいいと思いますか?」とご連絡をいただきました。「(手書きが慣れていて早いから)ペンタブレットとお絵かきアプリがよいのでは?」という意図でご連絡をいただいたのですが、私にはどう考えても「Windows+Microsoft365環境ならOneNoteの描画機能がよいのでは……。ペンタブレットは便利、iPadも使いやすいのでハードウェアは準備する価値がありますね」という結論にしかなりませんでした。テキストも打てるし(速い)、ペンタブレットやSurfaceやiPadで自由に書けるし、画面共有しなくても参加者が同時に見られるし、OneNoteいいじゃない(Microsoft WhiteboardやGoogle系ならJamboardもいいですね)。じつにつまらん結論です。

せっかくご連絡をいただいたというのにこんな平凡な回答になった理由は、「書く(描く)目的」を明確にお伝えいただいていたからです。こちらの会社はプロジェクトを進めるための議論を文字と図で書いています。それに適した「どんどん書ける」「共有できる」「習得が簡単」などの観点でツールをおすすめすることになりました。この目的では、高機能なお絵かきツールはたぶん邪魔になります。

派手な手段は目的にすり替わる

今年は会議やそのファシリテーションのためにいろいろなデジタルツールが紹介され、使い方もこなれてきた感があります。ただ、個人的にはそれらを何でも導入したらよいかというと、そうではないように感じました。目的が明らかでないのに新しいものを嬉しげに使っているだけ、みたいなシーンも多くなかったでしょうか。

「目的が明らかでないのに新しいものを嬉しげに使っているだけ」。グラフィックレコーディングにとっては耳の痛い一言です。描くことを起点に考えると、議論や対話することが目的に見えてしまいがちなのですよね。それは「書く(描く)」は本当の目的から階層が離れていて見えにくいことと、駆使する機能(技術)が複合的、つまり難しそうに見えて派手だからという気がします。

先に挙げた会社の仕事の目的は、議論を通じてシステム導入なり業務改革なりを成し遂げることです(そしてそれでお金を稼ぎ、社員が生活し、社会を回すこと)。「議論すること」は目的ではなく手段です。書く(描く)ことは目的から見ると、さらに二段くらい下の階層に位置する手段です。当ブログで紹介している文具などのツールは、その手段のさらに下層にありますね。このくらい下層だと目的にすり替わることも少ないはずですが、ことデジタルツールになるとわりと目的化することがあると感じるのは私だけでしょうか。「プロッキーで考えよう」とは言わないけれど「miroでディスカッションしよう」とは聞くのがそのあたりを表しているようにも感じるのです。それは、一般的に文具は単機能だけれどもデジタルツールは書く、まとめるなどいくつかの機能がまとまっているからではないかとにらんでいます(あくまで勝手な仮説ですが)。

ツールなどどうでもいいけど、どうでもよくない

さて、大河ドラマ脳で老害なので「目的」について築城のメタファーで考えてみました(なぜそうなる)。描いて促進されると言われる対話や議論は、城の土台である石垣の石のようなものだと思いました。基礎が積み上がることで、しっかりとお城を支えることができます。描くことはさしずめ基礎工事のやり方や道具といったところでしょうか。

では、目的は城を建てることなのか? と思いつつこの絵を描いていましたが、どうやらそれも違うような気がしませんか。そこに城を建てる目的は攻撃なのか、防御なのか、それとも威信を示すのか。400年後の大地震に耐えうる城と戦のための一夜城の土台、すなわち書き方や描く道具が同じなわけがありません。本質的にはツールなんかどうでもいいのだけど、成果のためにはどうでもよくない。台車が向いている場に重機を持ってこられても困るわけです。ツールそれぞれの機能や特徴を知って、目的に適した方法や道具を選ばないといけません。

ファシリテーションを取り戻す

当ブログが文具やその他のツールをご紹介しているのは目的に適した手段を選んでほしいし、それを楽に実行してほしいからです(詳しくは一昨年のアドベントカレンダー記事をご覧ください)。

でも、あまりにも下位レイヤーの話しかしてこなかったな(5年も!)と反省もしています。「グラフィックレコーディングの効用は?」と問われるとつい「わかりやすく可視化し」「対話を促進する」などとビッグワードが出てしまいますが、「では促進された対話は何を生むのか」まで視野に入れて説明したいものです。

書くファシリテーションは他のスキルに比べると習得が簡単なわりにパワフルで、いうなれば「コスパがよい」ものです。それだけに不要な場にねじ込んで不幸なことになっている場面もあります(それに加担しなかったとは言いません、本当に申し訳ない)。そこで、トレーニングワークショップやブログを通じて「やり方、考え方」をもっとお伝えしていかなければならないだろうと思っています。

この夏、とある巨大企業の方と「事業部にそれぞれ10人、描ける人がいたら最高じゃないですか?」みたいな話をしました。それは組織開発とかイノベーションとか、そういった言葉とは無縁な人も描ける(=ファシリテーションできる)ことを指しています。対話とか伴走とかそういったビッグワードから、手触りのあるレベルにまでファシリテーションを取り戻したいなあと思いますし、そのためにもっと具体的な言葉と行動で書く(描く)ファシリテーションをお伝えする活動をしていこうと思います(まずブログがんばる)。

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